変動月から3ヶ月間の報酬の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じると随時改定の対象となりますが、複数の事業所で被保険者となっている二以上事業所勤務被保険者が一方の事業所で昇給または降給し、報酬月額が変動した場合の取扱いや手続きはどうなるのでしょうか。
結論としては、両事業所がまったくの別会社のとき、もう一方の会社で支払われる給与を確認することは通常考えられませんので、一方の事業所の月額報酬が変動する場合、その事業所のみで随時改定の要件に該当するかどうかを判断すればよいことになります。
A事業所とB事業所の2社で勤務している被保険者を例に挙げて詳しく解説します。
ケース1:A事業所で2等級以上の変動に該当
A事業所のみで2等級以上の差が生じる報酬月額の変動があった場合。
変動前 | 変動後 | 2等級以上の変動 | |||
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等級 | 報酬月額 | 等級 | 報酬月額 | ||
A事業所 | 220,000 | ↑ 260,000 | 該当する | ||
B事業所 | 120,000 | → 120,000 | 変動なし | ||
合算 | 13等級 | 340,000 | 15等級 | ↑ 380,000 | 該当する |
A事業所で2等級以上の差が生じる変動があった場合には、随時改定の対象になりますので、A事業所において「被保険者報酬月額変更届」を提出し、B事業所においては手続きは不要です。
その後、新たな報酬月額が決定されると日本年金機構等より各事業所に報酬月額改定の通知がされます。
B事業所において、単体では報酬月額の変動がないにも関わらず、標準報酬月額が改定された場合は、A事業所において2等級以上の差を生じる変動があったということになります。
ケース2:A事業所のみで2等級以上変動したが、合算で2等級以上の変動に該当しない
A事業所のみで2等級以上の差が生じる報酬月額の変動があったものの、合算でみると1等級しか上がらない場合があります。
変動前 | 変動後 | 2等級以上の変動 | |||
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等級 | 報酬月額 | 等級 | 報酬月額 | ||
A事業所 | 360,000 | ↑ 400,000 | 該当する | ||
B事業所 | 220,000 | → 220,000 | 変動なし | ||
合算 | 30等級 | 580,000 | 31等級 | ↑ 620,000 | 該当しない |
たとえ、合算して2等級以上の差が生じない場合であっても、A事業所のみで2等級以上の差が生じた場合随時改定の対象となり、A事業所において「被保険者報酬月額変更届」を提出する必要があります。B事業所においては手続きは不要です。
通常、1等級差の変動では月額変更届の提出は不要ですが、二以上事業所勤務の場合は保険料の按分率が変わり、各事業所の負担する保険料が変わってくるため随時改定が必要になります。
ケース3:合算で2等級以上の変動に該当
両事業所で報酬月額に変更があったものの2等級以上の差は生じなかったが、合算で2等級以上の変動に該当する場合。
変動前 | 変動後 | 2等級以上の変動 | |||
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等級 | 報酬月額 | 等級 | 報酬月額 | ||
A事業所 | 105,000 | ↑ 110,000 | 該当しない | ||
B事業所 | 85,000 | ↑ 100,000 | 該当しない | ||
合算 | 13等級 | 190,000 | 15等級 | ↑ 210,000 | 該当する |
A事業所、B事業所においてともに昇給し、たとえ両事業所の報酬月額を合算して標準報酬月額に2等級以上変動しても、各事業所で2等級以上の差が生じなければ随時改定の対象とはなりません。(最高等級へ1等級上がった場合などは、随時改定となります。)
よって、A事業所、B事業所ともに「被保険者報酬月額変更届」の提出は不要です。
当該被保険者は定時決定により新たな標準報酬月額が決定されます。
ケース4:合算で2等級以上の変動に該当しない
A事業所において昇給、B事業所において降給し、各事業所で2等級以上の差が生じたが、合算すると被保険者の報酬月額等級に変動がない場合。
変動前 | 変動後 | 2等級以上の変動 | |||
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等級 | 報酬月額 | 等級 | 報酬月額 | ||
A事業所 | 300,000 | ↑ 340,000 | 該当する | ||
B事業所 | 260,000 | ↓ 220,000 | 該当する | ||
合算 | 29等級 | 560,000 | 29等級 | → 560,000 | 該当しない |
両事業所で2等級以上の変動が生じると随時改定の要件に該当しますので、各事業所で「被保険者報酬月額変更届」を提出しなければなりません。
合算すると、結果として等級は変更されないので、当該被保険者が負担する社会保険料額は変わりませんが、各事業所の保険料の按分率が変わることになります。
二以上事業所勤務被保険者の社会保険料の計算方法については、下記のページをご覧ください。
