学生がアルバイトをする場合、労働保険(労災・雇用)や社会保険に加入する義務はあるのでしょうか?加入しなければならない条件について、それぞれの保険制度、学生のケースについて説明します。
労働保険の加入条件
労働保険とは、「労災保険」と「雇用保険」の2種類を総称したものであり、それぞれ加入の条件が異なります。
労災保険
労災保険は、仕事や通勤が原因で負傷したり、病気にかかったり、死亡した場合にその労働者や遺族に対して保険給付を行い、また被災した労働者の社会復帰を助けるといった目的の制度です。
正社員・アルバイトなどの雇用形態、また労働時間の長短にかかわらず、適用事業所の場合すべての従業員について加入が義務付けられていますので、学生のアルバイトであっても加入しなければなりません。
労災保険料は、全額事業主が負担しますので、労働者の給料から天引きされることはありません。
雇用保険
雇用保険は、労働者が失業したとき、育児や介護で働くことが難しくなったとき、また教育訓練を受けたときなど、失業中の労働者の生活を支えるために必要な給付を行っている制度です。
雇用保険は、労働者の生活や雇用の安定を図る目的で制定されているために、学業が本務である高校生や大学生など昼間学校に通う学生については、雇用保険の被保険者とならないものとして取り扱われるので加入義務はありません。
ただし、次の(1)に該当する学生が(2)の条件のすべてに当てはまる場合は雇用保険に加入しなければなりません。
(1)学生の要件
- 卒業を予定しており、卒業後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の学生
- 休学中の学生
- 勤務する会社の命令によって、または承認を受け、大学院に通う学生(社会人大学院生など)
- 通信教育、夜間学校、定時制の学生
(2)加入の要件
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 雇用期間が継続して31日以上であること
- 季節的雇用でないこと
雇用保険料は、事業の種類によって料率が変わり、事業主負担と労働者負担それぞれの料率が定められています。労働者負担分の保険料を給料から徴収し、事業主が事業主負担と合わせて納付しなければなりません。
社会保険の加入条件
社会保険には、「健康保険(介護保険含む)」と「厚生年金保険」があります。
健康保険
健康保険は、労働者やその扶養家族の業務災害以外の病気やケガ、死亡や出産、病気やケガなどが原因で働けなくなったときの保険給付などを行う制度です。
学生であっても条件を満たす場合は加入義務がありますが、昼間学校に通うほとんどの学生アルバイトは条件を満たさないことが多いでしょう。
※加入義務のある学生については、下記「健康保険・厚生年金保険の加入条件」で説明します。
協会けんぽや勤務先の健康保険組合の健康保険に加入しない場合は、国民健康保険に加入し、労働者の世帯の世帯主が納付義務者となりますので、事業主側に保険料の負担はありません。
厚生年金保険
厚生年金保険は、会社員や公務員を対象とする年金制度であり、老齢・障害・死亡について年金や保険の給付を行い、給料の額に応じた保険料を納めることで、将来もらえる年金額も納めた保険料に基づいた額になります。
学生であっても条件を満たす場合は加入義務がありますが、昼間学校に通うほとんどの学生アルバイトは条件を満たさないことが多いでしょう。
※加入義務のある学生については、下記「健康保険・厚生年金保険の加入条件」で説明します。
厚生年金保険に加入しない20歳以上の学生は、国民年金保険に加入し全額を自分自身で納めることになりますので、事業主側に保険料の負担はありません。
健康保険・厚生年金保険の加入条件
学生であっても次の要件のすべてに該当する場合は、健康保険・厚生年金保険に加入しなければなりません。
正社員または労働日数・労働時間が正社員の3/4以上の労働者の場合
学生が社会保険の適用事業所で勤務する場合、正社員(通常の労働者)または労働日数・労働時間が正社員の3/4以上の労働者は、昼間学校に通う高校生や大学生であっても社会保険に加入しなければなりません。
例えば、正社員の所定労働時間が週40時間の事業所で、アルバイトとして週30時間以上働くようなケースは社会保険の加入条件を満たすことになります。
労働日数・労働時間が正社員の3/4未満の短時間労働者の場合
昼間学校に通う高校生や大学生が、労働日数・労働時間が正社員(通常の労働者)の3/4未満の範囲で働く場合は、社会保険への加入義務はありません。
ただし、雇用保険と同様、次の(1)に該当する学生が社会保険の適用事業所で働く場合に(2)の条件のすべてに当てはまるときは、社会保険に加入しなければなりません。
(1)学生の要件
- 卒業を予定しており、卒業後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の学生
- 休学中の学生
- 勤務する会社の命令によって、または承認を受け、大学院に通う学生(社会人大学院生など)
- 通信教育、夜間学校、定時制の学生
(2)加入の要件
- 被保険者の総数が常時100人を超える事業所で勤務していること
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 雇用期間が継続して2ヶ月を超えること
- 給料が月額88,000以上であること
健康保険料・厚生年金保険料は、事業主と労働者が1/2づつ折半して負担します。労働者の保険料は毎月の給与から徴収し、事業主が合わせて納付します。
健康保険は、年間収入が130万円未満であって親や親族の扶養に入っている場合でも、本人が健康保険に加入する場合は扶養から外れます。また、国民年金保険は20歳以上で納付義務がありますが、厚生年金保険料については、年齢の下限がないため20歳未満であっても支払わなければなりません。
夏休みなどの長期休暇のとき
昼間学生が夏休みなどの長期休暇を利用して毎日のようにシフトを入れ正社員並みに働いたとき、その期間だけ加入条件を満たすような場合、その期間について雇用保険・社会保険に加入しなければならないのでしょうか。
雇用保険は、昼間学生は本来学業が本務であり、アルバイトを辞めたとしても本来の学業に専念するという状態に戻るに過ぎないため、一時的に雇用保険の加入条件を満たすような場合であっても、そもそも適用除外になるため被保険者となることはありません。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)については、雇用契約上の所定労働時間をもとに加入条件を満たすかどうか判断しますが、長期休暇のときだけ臨時的に労働時間が増え、その後は条件に満たない通常の所定労働時間に戻るような場合は、その期間中であっても加入する必要はありません。
まとめ
昼間学生 | 卒業予定 休学中 定時制 など |
||
---|---|---|---|
労働日数・労働時間 が正社員の3/4未満 |
労働日数・労働時間 が正社員の3/4以上 |
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労災保険 | ○ | ○ | ○ |
雇用保険 | × | × | △ |
健康保険 | × | △ | △ |
厚生年金保険 | × | △ | △ |
○…加入義務あり
△…条件を満たす場合、加入義務あり
×…加入義務なし