事業者は労働者の健康を確保する義務があり、労働安全衛生法に基づき「事業者は、常時使用する労働者に対し医師による健康診断を行わなければならない。」としています。
労働者を使用する上で健康診断は必須のものになりますが、受診にかかる時間についての賃金は有給であるべきなのでしょうか?
受診にかかる時間について賃金の支払の有無
健康診断には、主に「一般健康診断」と特殊の有害業務に従事する労働者に対する「特殊健康診断」があります。
一般健康診断
一般健康診断は、職種に関係なく常時使用する労働者に対して、労働者の雇入れの際や雇入れ後1年以内ごとに1回、定期的に実施しなければならない健康診断です。
これは、業務遂行との直接の関連において行われるものではないため、一般健康診断の受診にかかる時間については、賃金の支払義務はないとされています。(昭和47.9.18基発第602号)
このことから、一般健康診断は所定労働時間内に実施する義務はなく、また労働時間であったはずの時間に行った場合に受診に要した時間分の賃金を控除すること自体は違法ではありません。健康診断の受診にかかる時間についての賃金の有無は、労使間の協議によって取り決めるべきものになります。
また、健康診断の受診に要した時間を無給とした場合、年次有給休暇扱いにするか否かを労働者に決定させることも問題ではありませんが、有給休暇は本来、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するための目的のものであるため、本来の趣旨に沿わない目的での年休取得は好ましくありません。
事業者には労働者の健康を確保する義務がありますので、労働者への円滑な受診を促すためにも、所定労働時間内で行い、その時間の賃金を支払われることが望ましいとされています。多くの企業が、所定労働時間内に健康診断を実施し、その間の賃金を支払う取り決めになっているようです。
特殊健康診断
特殊健康診断とは、法定の特殊の有害業務に従事する労働者に対する健康診断をいいます。
特殊健康診断は、事業の遂行にからんで当然実施されなければならないものですので、所定労働時間内に実施することが原則であり、賃金の支払義務が生じます。このため、健康診断の受診に要した時間は労働時間とみなされ、また健康診断が所定労働時間外に行われた場合は、その時間外労働について割増賃金を支払う必要があります。