残業した場合の割増賃金を算出するにあたって計算の基礎となる手当から除くものについては、労働基準法で明確に定められていますが、欠勤した場合の欠勤控除の対象となる手当については法令上の規定がありません。
労使間のトラブルを防ぐためにも、欠勤控除の計算については、会社の就業規則や賃金規程等で明確にルールを決め、従業員全員に周知しておく必要があります。
欠勤控除の対象となる各種手当
欠勤控除の計算の対象とする賃金は、基本給のみとする場合や基本給+諸手当とする場合もあり、その会社の取り決めによって異なります。
基本給以外の手当をどこまで控除対象とするかについては、会社独自の判断基準によって決定することも可能ですが、労働者の理解を得られる範囲とするのが望ましいでしょう。
一般的には、その手当の性質や支給の趣旨に応じ、控除の対象になる各種手当が定められます。
例えば、業務に直接関連する手当は控除対象に含め、出勤とは関係なく属性や職域によって支払われる手当は控除対象に含めないといった判断をすることが一般的です。
業務に直接関連する手当 (欠勤控除対象) |
属性や職域によって支払われる手当 (欠勤控除対象外) |
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固定残業手当
資格手当 危険手当 など |
役職手当/職務手当/職能手当
扶養手当/家族手当 住宅手当 など |
固定残業手当は残業代の未払いに注意
固定残業手当についても欠勤控除の対象とすることに問題はありませんが、残業代の未払いとなる可能性があることに注意をしなければなりません。
例えば、月20時間までの残業に対して固定残業手当を支給している場合、出勤した日に20時間分の残業をし1日だけ欠勤した場合、固定残業手当を欠勤控除の対象にすると満額が支払われず「残業代の未払い」が発生してしまいます。
残業代の未払いは労働基準法違反となりますので、違法とならないよう欠勤控除の計算をする必要があります。
これを解消するために、「欠勤日がある月については固定残業手当を支給せず、時間外労働分の割増賃金を別途支給する」などといった賃金規程を設けることも可能です。
通勤手当(交通費)を欠勤控除の対象とするか
定期代を購入している場合
従業員が通勤のために公共交通機関を利用している場合に、従業員が定期券を購入し、その定期券代相当額を通勤手当として支給しているケースにおいては、欠勤した日数分だけ払い戻しをすることはできませんので、労働者にとって不利益になってしまいます。
交通費について「実費を支払う」と定めているような場合は、控除の対象に含めるべきではなく、満額を支給します。
所得税に注意
通勤手当を欠勤控除の対象とする場合、非課税限度額内の通勤手当にかかる所得税は非課税となります。したがって、他の基本給や手当と合わせて控除すると所得税の計算が正しく行われないので、単体で欠勤控除額を算出する必要があります。
例えば、基本給250,000円、通勤手当10,000円、日割り計算に用いる月所定労働日数20日の場合、
正しい例 | 間違った例 |
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基本給(課税) 250,000円
通勤手当(非課税)10,000円 欠勤控除(課税) 25万÷20日=△12,500円 欠勤控除(非課税)1万÷20日=△500円
課税項目計:250,000-12,500円=237,500円 非課税項目計:10,000-500=9,500円 |
基本給(課税) 250,000円
通勤手当(非課税)10,000円 欠勤控除(課税) (25万+1万)÷20日=△13,000円
課税項目計:250,000-13,000円=237,000円 非課税項目計:10,000円 |
このように、欠勤控除を「課税となる基本給」と「非課税となる通勤手当」を合わせて計算すると課税と非課税が混合した欠勤控除額が算出されてしまいますので、課税対象となる給与と通勤手当は分けて欠勤控除額を算出する必要があります。
長期欠勤者の欠勤控除は基準日を設けて不支給・減額を決める
例えば、諸手当を控除対象にしていなかった場合、月に1日しか出勤していない従業員に対して、基本給は日割りでも諸手当は満額支払われると、他の従業員と比べて不公平になってしまいます。
この問題を解消するために、欠勤日数が多い月の通勤手当については、一定の基準日を決めてその基準日を超えた場合に、不支給または日割りした額を減額することも可能です。基準日を何日とするかは、会社の実情や方針により決定して問題ありません。
ただし、就業規則・賃金規程等に「月○○日以上欠勤した場合は、支給しない」「月○○日以上欠勤した場合は、日割り計算とする」と明記する必要があります。