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給与の振込手数料を従業員自己負担とすることは違法?裁判例は?

給与を支給する際、銀行振り込みによる振込手数料を労働者の自己負担とし、給与から天引き(控除)することは法律違反になるのでしょうか?

 

労働基準法の定め

一般的には、給与振込の手数料は、会社(使用者)負担とすることが多いかと思います。

中小企業に見られますが、会社が指定する金融機関および支店への振込は、もともと振込手数料が無料だったりしますので振込手数料を引かず、指定金融機関以外の場合には労働者負担とするという会社も存在します。

 

給与を振り込む際にかかる振込手数料を労働者負担とすることが違法であるか否かについては、明確な法律や通達がありません。

「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」という労働基準法24条1項の全額払の原則に反するという専門家の意見もありますが、裁判において振込手数料を相殺すること自体を違法とはしていない判例があります。(それでも会社側が敗訴。詳細は下記参照。)

 

そもそも給与の支払い方法としては、通貨(現金)による支払いを原則としており、例外として、労働者の同意を要件に金融機関への給与振込みによる支給方法が認められています。(労働基準法施行規則第7条の2第1項)

労働者負担の振込手数料がまかり通っている理由には、本来給与は現金払いが原則であり、昔は現金支給が主流でしたので、その慣例の中で「振込支給とすることは労働者の要望なのだから、手数料は労働者が自己負担してください」という古い形が残っているものだと考えます。

 

とはいえ、平成30年2月7日の裁判で振込手数料負担について労働者が勝訴した裁判例もあります。

 

振込手数料を巡る実際にあった裁判例

【凸版物流ほか1社事件】
[労基法24条1項(給与からの振込手数料控除)の違反]
“派遣元”の「即給サービスを利用した場合には、即給サービスの振込手数料として、振込先口座が、三井住友銀行の口座の場合には105円、他行の場合は305円が給与から天引きされるところ」、「”派遣元”らが”労働者”の賃金と即給サービスの利用手数料を相殺することができるためには、”労働者”が相殺に同意していることだけでは足りず、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足る合理的理由が客観的に存在しなければならない」。
「”派遣元”らは現金による賃金支払の事務の負担を免れることができる一方、”労働者”ら就業者は、日雇派遣及び日々職業紹介という不安定な雇用に置かれている者であり、不本意ながら即給サービスを利用せざるを得ない立場にあるといえ、現に約45%に及ぶ就業者が即給サービスを利用しているのであるがら、”労働者”ら就業者の同意があるとしても、それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足る合理的理由が客観的に存在する場合には当たらず、”労働者”の賃金から即給サービスの利用手数料を控除することは、労働基準法24条1項に違反するというべきである」。

 

日雇派遣労働者が派遣元に日当の送金事務手数料の天引きについて損害賠償を求めた事案です。

この裁判について、裁判所は、振込手数料を控除(労働者負担)すること自体を違法とはしませんでした。

しかし、労働者が振込手数料の相殺について同意したものの、振込以外の支給方法を利用せざるを得なかったために、それによって労働者の自由な意思に基づいてされたとは認められず合意として不十分であると判断されました。結果、裁判所は、労働基準法24条1項の全額払いの原則に違反するものだと判決を下したのです。(労働者の勝訴)

 

トラブルを避けるためには会社負担とするべき

以上のように、給与の支給方法および振込手数料の負担について、労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足る合理的理由がない限り、振込手数料は会社負担としなければ労働基準法違反となります。

 

振込手数料を差し引いて支給する場合は、現金払いか振込支給かを選択できることが前提とした上で、就業規則や賃金規程等で明確に定めておき、労働者に周知することが重要です。

また、振込手数料の労働者負担に対して同意できない従業員に対しては、現金払いにすることです。「同意しない従業員のみ会社負担、その他の従業員は労働者負担」とすることは、労働者間の公平性が確保できませんので避けましょう。

 

会社指定の金融機関

給与の振込先として、振込手数料がかからない同行同支店などの金融機関を従業員に推奨することはできますが、強制することはできません。

法律で、振込みが認められているのは「労働者が指定する金融機関への振込み」です。(労働基準法施行規則第7条の2第1項)

 

給与から振込手数料を引かれたくない労働者の方は…

給与振込にあたって振込手数料を引かれたくないという場合は、現金払いにしてもらうことです。

金融機関への振込は、労働者の同意がなければなりません。同意がないにも関わらず、振込にされた場合は法律違反となりますので、労働者が振込を拒否すれば会社は現金で支払うほかありません。

労働者が会社に対して文書や口頭での同意がなくても、労働者本人名義の口座を提示している場合には、特段の事情がない限り同意が得られているものと解されます。(昭和63年1月1日基発1号)