試用期間中における賃金を本採用の労働者より低く定める場合に、最低賃金法で定められている賃金額を下回ることはできるのでしょうか?
最低賃金について
試用期間は、労働協約、就業規則または労働協約において定められ、試用期間中はその労働者の能力や人格等を審査してその職種や職場における適格性を有するか否かを判断するため試験的に使用されるものであり、一般の労働者の労働能力と比べ生産性が低いことがあります。
労働契約の締結時に、試用期間中の賃金を本採用時より低い金額で明示し合意した場合は違法ではありませんが、その賃金額が最低賃金を下回る場合は、最低賃金法第4条違反になります。
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
(最低賃金法第4条第1項)
使用者は、労働者に対して最低賃金額以上の賃金を支払う義務があり、この規定に違反した者は50万円以下の罰金に処されます。
最低賃金額より低い給与が認められる場合
ただし、最低賃金法第7条において「最低賃金の減額の特例」が定められています。
「最低賃金の減額の特例」
使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第4条の規定を適用する。
1 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者2 試の使用期間中の者3 職業能力開発促進法第24条第1項の認定を受けて行われる職業訓練のうち職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であって厚生労働省令で定めるもの4 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者(最低賃金法第7条)
このように、都道府県労働局長の許可を受けた場合に限り、試の使用期間中の者を最低賃金より低い給与で使用することができます。
許可を受けるには、試用期間であること、最低賃金未満の賃金額で使用することに対して次のような実態が重要になります。
まず、最低賃金法第7条にある「試の使用期間中の者」とは、次の要件をすべて満たしている労働者であることが求められます。
【労働者の要件】
- 試用期間の後に本採用が予定されていること。
試用期間後にそのまま本採用に自動的に移行する場合、もしくは本採用の契約を新たに締結する場合がありますが、どちらにしても試用期間のみが定まっていて当該期間の経過後の扱いがどうなるかが明確でないものは試用期間とは言えません。 - 試験的な使用期間であること。
試用期間中または試用期間満了後に、本採用するかどうかを決定し不適格と判断された場合には解雇し得ることとなっているように、労働者の身分が不安定な時期であるという実態が求められます。
さらに、最低賃金未満となる減額の特例が認められるには、次のいずれかの要件を満たすことが必要です。
- 当該地域における当該業種又は職種の本採用労働者の賃金水準が最低賃金額と同程度であること。
- 当該地域における当該業種又は職種の本採用労働者に比較して、試の使用期間中の労働者の賃金を著しく低額に定める慣行が存在するなど減額対象労働者の賃金を最低賃金額未満とすることに合理性があること。
試用期間中の賃金額と期間の長さ
試用期間中の労働者に適用される減額率は最大で最低賃金額の20%減とされており(最低賃金法施行規則第5条)、期間の長さは、当該業種・職種等の実情に照らし必要と認められる期間で最長6ヶ月が限度です。
- 減額率…最低賃金額の20%以下
- 期間…6ヶ月以内
最低賃金額-(最低賃金額×減額率)
例:地域別最低賃金額1,041円、減額率を10%とする場合
減額する額 1,041×10%=104.1→104円(1円未満の端数は切り捨てる)
減額後の最低賃金 1,041-104=937円
手続き
「試の使用期間中の者の最低賃金の減額の特例許可申請書」を管轄の労働基準監督署を経由して都道府県労働局長に提出する必要があります。
「試の使用期間中の者の最低賃金の減額の特例許可申請書」には、下記の内容(一部)を詳細に記入します。
- 従事させようとする業務の種類…当該労働者に従事させようとする具体的な業務の種類
- 労働の態様…始業終業の時刻、作業の内容、作業量等
- 減額の特例許可を必要とする理由等…減額の特例許可を必要とする理由その他参考となる事項
- 減額の特例許可を受けようとする最低賃金・・・許可を受けようとする全ての最低賃金の件名(地域別最低賃金、特定最低賃金等)及び金額
- 支払おうとする賃金の金額・減額率・理由…最低賃金の対象となる賃金、使用者において当該減額率を定めた理由