経営不振のため従業員を解雇したり、無断欠勤や遅刻が多い従業員や試用期間中の労働者を即時に懲戒解雇することは可能でしょうか?即時解雇する場合には、それぞれのケースにおいて解雇にやむを得ない理由があるか認定を受けるために所定の手続きが必要となります。
解雇には解雇予告の期間または手当が必要
会社(使用者)側が、一方的に労働契約を解除することを「解雇」といいます。
原則として、労働者を解雇しようとするときは、
- 少なくとも30日前に解雇の予告をする
- 即時解雇の場合は、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払う
上記いずれかの対応をとらなければなりませんが(労働基準法第20条)、これらの解雇予告をする必要のない解雇があります。
解雇予告不要の対象労働者
次の労働者については、労働基準法の解雇予告の規定から除外されている労働者として、第21条に定められています。臨時的な期間や試用期間で雇用される労働者を解雇する場合には、30日前の解雇予告および解雇予告手当の支払いは不要です。
- 日々雇入れられる者
- 2ヶ月以内の期間を定めて使用される者
- 季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて使用される者
- 試の使用期間中の者
ただし、上記の労働者に該当する場合でも、一定の期間を超えて雇用される場合や業務上傷病・産前産後休業後の30日間は解雇予告が必要となります。
【一定の期間を超えて雇用される場合】
解雇予告が必要ない労働者 | 解雇予告が必要となる場合 |
---|---|
日々雇入れられる者 | 1ヶ月を超えて引き続き使用されるに至った場合 |
2ヶ月以内の期間を定めて使用される者 | 所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合 |
季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて使用される者 | |
試の使用期間中の者 | 14日を超えて引き続き使用されるに至った場合 |
【業務上傷病・産前産後の解雇制限】
業務上傷病の療養のための休業期間や産前産後の休業期間の後30日間は即時解雇できません。(労働基準法第19条)
例えば、試用期間中の労働者が入社後10日目に業務上においてケガをした場合、療養のために休業する期間+その後30日間は、その労働者を解雇することはできません。
認定事由による即時解雇
すべての労働者において以下の事由に該当する場合は、行政官庁(労働基準監督署長)の認定を受けることによって30日前の解雇予告をせず、かつ解雇予告手当の支払いをせずに解雇することができます。
- 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の存続が不可能となった場合
- 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
これを「解雇予告除外認定」といいます。それぞれの事由について、どのようなケースが該当するのか詳しく説明します。
天災事変その他やむを得ない事由で経営不可能
天災事変その他やむを得ない事由のために事業の存続が不可能となった場合において従業員を解雇するときは、解雇予告および解雇予告手当は必要ありません。
【天災事変その他やむを得ない事由とは】
天災事変に準じる程度に不可抗力に基づきかつ突発的な事由の意であり、事業の経営者として、社会通念上採るべき必要な措置をしても通常困難な状況にある場合をいいます。(昭和63年3月14日基発第150号)
やむを得ない事由に該当する例
・事業場が火災により焼失した。(事業主の故意または重大な過失に基づく場合は除く)
・震災に伴う工場、事業場の倒壊、類焼等により事業の継続が不可能となった。 など
やむを得ない事由に該当しない例
・事業主が経済法令違反のため強制収容され、または購入した機械、資材等を没収された。
・税金の滞納処分を受け、事業廃止に至った。
・事業経営上の見通しの齟齬のように事業主の危険負担に属すべき事由に起因して資材入手難、金融難に陥った。
・従来の取引事業場が休業状態となり、発注がなくなってしまったために事業が金融難に陥った。 など
【「事業の継続が不可能になる」とは】
事業の全部又は大部分の継続が不可能になった場合をいいますが、例えば、事業場の中心となる重要な建物、設備、機械等が焼失を免れ、多少の労働者を解雇すれば従来どおり操業しうる場合、従来の事業は廃止するが多少の労働者を解雇すればそのまま別個の事業に転換しうる場合のように、事業が主たる部分を保持して継続しうる場合、又は一時的に操業中止がやむを得ない状況となったが、事業の現況、資材、資金の見通し等から全労働者を解雇する必要に迫られず、近く再開復旧の見込みが明らかであるような場合は「事業の継続が不可能になる」とは言えません。(昭和63年3月14日基発第150号)
労働者の責に帰すべき事由がある
労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合において従業員を解雇するときは、解雇予告および解雇予告手当は必要ありません。
【「労働者の責に帰すべき事由」とは】(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)
具体的には、以下のような労働基準法第20条(解雇の予告)の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質な行為が認定の対象となります。
・極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合
・賭博、風紀の乱れ等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす行為
・雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴詐称
・他の事業場への転職
・2週間以上正当な理由もなく無断欠勤し、出勤の督促にも応じない場合
・数回にわたって注意を受けても出勤不良が改まらない場合
解雇予告の制度は労働者を突然の解雇により被る生活の困窮から保護するためにありますが、解雇予告除外の認定は保護するに値しないほどの重大または悪質な行為があった場合であって、事業内の就業規則等に定める懲戒解雇事由とは必ずしも一致するものではないことに注意が必要です。
解雇予告除外認定申請の手続き
必要書類と提出先
解雇予告除外の事由の存否については、労働基準監督署長の認定が必要となります。
認定申請を行う場合は、解雇日より前に以下の資料を各2部ずつ管轄の労働基準監督署へ提出します。
提出には、指定の様式の申請書を使用する必要があり、天災事変その他やむを得ない事由の場合は[様式第2号]を、労働者の責に帰すべき事由の場合は[様式第3号]を使用します。
提出先:対象となる労働者が所属する事業所の所在地を管轄する労働基準監督署
【天災事変その他やむを得ない事由のために事業の存続が不可能となった場合】(各2部ずつ)
- 解雇予告除外認定申請書 [様式第2号]
- 被申請労働者の範囲等が明らかになる資料
・被申請労働者の労働者名簿 - 事業場の被害状況について客観的に判断できる資料
・地方自治体が発行する罹災証明書、事業場施設の被害状況全体が把握できる写真 など
【労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合】(各2部ずつ)
- 解雇予告除外認定申請書 [様式第3号]
- 被申請労働者の生年月日、雇入年月日、職種(名)、住所、連絡先等が明らかになる資料
・被申請労働者の労働者名簿 - 申請に係る「労働者の責に帰すべき事由」が明確となる疎明資料
・事由の経緯について時系列に取りまとめた資料
・被申請労働者の「労働者の責に帰すべき事由」の自認書、本人の署名・押印のある顛末書等
・懲罰委員会など懲戒処分関係の会議の議事録
・新聞等で報道された場合は、その記事の写し など - 就業規則(解雇・懲戒解雇等の該当部分)
- 解雇通知をしている場合は、解雇予告日及び解雇日が分かる書面
この他にも、それぞれの事案に応じて追加の資料を求められることがあります。
記入例
「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった具体的事情」の欄
「〇年〇月〇日、台風×号に伴う集中豪雨で河川が氾濫し、建物の全部が流失、再起不能となったため」
「労働者の責に帰すべき事由」の欄
「〇年〇月〇日から会社に無断で欠勤すること1ヶ月に及び、この間会社から再三の出勤督促にもかかわらず、出社しないもの」等
(引用:厚生労働省パンフレット)
申請する前に解雇したらどうなる?
解雇予告の除外認定は、原則として労働者に解雇の意思表示をする前に受けるべきですが、認定されるべき事実があり即時解雇の意思表示をした後に労働基準監督署長へ申請し認定を受けた場合には、その解雇の効力は即時解雇の意思表示をした日に発生したと考えられます。(昭和63年3月14日基発第150号)
しかし、認定をされるべき事実がないと判断された場合や認定申請を遅らせた場合には、労働基準法違反となりますので、労働基準監督署からの是正勧告を受けたり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。(労働基準法第119条第1号)