会社が従業員に通勤手当や出張旅費等(旅費・宿泊費・日当等)を支給する場合、課税仕入れの相手方は従業員となります。この場合、領収書(適格簡易請求書)やインボイスがなくても消費税の仕入税額控除を受けることができるのでしょうか?
消費税の取扱い
国内出張等
従業員に支給する出張や転任・転居のための旅費・宿泊費・日当等については、通常必要であると認められる部分の金額は「課税仕入れ」に該当します。(基通11-2-1)
基本通達にあるように、課税仕入れとされるのは「通常必要であると認められる部分の金額」に限られていますので、この範囲を超えた出張旅費等の金額を従業員に支給した場合は、必要と認められる範囲を超えた部分のみについて仕入税額控除が認められません。なお、必要と認められる範囲を超えた部分は給与とみなされ、所得税も課されることになります。
海外出張等
出張旅費等が「課税仕入れ」に該当するのは、国内における取引に限ります。消費税の課税対象となる取引は国内取引と輸入取引に該当するものですので、国外での旅費・宿泊費・日当等について従業員に支給した場合には、国外取引・輸出免税となるため課税の対象になりません。
適格請求書(インボイス)は必要?
原則として課税仕入れに該当する取引について仕入税額控除を行うためには、適格請求書(インボイス)の保存が必要です。
消費税の課税対象となる従業員に支給する国内の出張旅費等(出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当)については、従業員本人はインボイス発行事業者ではないため、インボイスの交付を受けることができません。
そこで、インボイスの交付義務免除の特例として、従業員等に支給する通常必要と認められる通勤手当・出張旅費等については、インボイスの交付がなくても一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。(消法30⑦、消令49①-ニ、消規15の4二、基通11-6-4)
この場合、通勤手当のうち所得税法上非課税限度額を超えている場合であっても、通常必要と認められる範囲内であれば、インボイスなしでその全額の仕入税額控除が認められます。また、3万円未満の公共交通機関による旅客の運送はインボイスが不要とされていますが、出張旅費等の金額が3万円以上である場合も、金額にかかわらず帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。
所得税 | 消費税 | インボイス要否 | ||
---|---|---|---|---|
通勤手当 | 非課税限度額の範囲内 | 非課税 | 課税仕入れ | 帳簿のみの保存 (インボイス不要) |
非課税限度額を超える部分 | 課税 | 課税仕入れ | ||
出張旅費等 (国内) | 通常必要と認められる範囲内 | 非課税 | 課税仕入れ | |
上記の範囲を超える部分 | 課税 | 対象外 | – |
【出張旅費等の「通常必要であると認められる部分の金額」とは】
出張旅費等の帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる「通常必要であると認められる部分」については、所得税基本通達9-3に基づいて判定されます。よって、所得税が非課税となる範囲内で、消費税においても仕入税額控除が認められることになります。その判定は、次の事項を勘案することとしています。
- 支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
- 支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。
通常は、実費相当額であれば問題ありません。
インボイスが必要な場合
会社が事業者と直接決済する場合
例えば、会社が従業員に航空券相当額を出張旅費として支給し、従業員本人が航空券を購入した場合はインボイスを受ける必要はありませんが、会社が航空会社と直接決済し航空券を購入した場合はインボイスの保存が必要となります。
※ただし、3万円未満の公共交通機関による旅客の運送(船舶・バス・鉄道等)および入場券等が使用の際に回収される取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存でインボイスは不要です。
従業員の立替払いとする場合
旅費規程等によらず、従業員が業務に用した旅費交通費の立替払いを行った場合、仕入税額控除を行うためには、会社宛のインボイスの交付を受ける必要があります。
インボイスの宛名が会社ではなく「立替払いを行った従業員」となっている場合、インボイスの記載事項を満たさず仕入税額控除ができないこととなるため、会社が仕入税額控除を行うためには、従業員が会社に宛てた「立替金精算書」等を作成し、従業員宛のインボイスと併せて保存します。
※ただし、3万円未満の公共交通機関による旅客の運送(船舶・バス・鉄道等)および入場券等が使用の際に回収される取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存でインボイス不要です。詳しくは下記ページをご参考ください。