費用・収益が事業年度をまたがって生じた場合は、各事業年度に適正に配分されなければなりません。これを簿記では「費用・収益の見越・繰延」といいますが、実務において毎月の利益を正しく把握するために、決算だけでなく月次の処理においてもよく使われます。
簿記を学習し始めたときに迷いやすい「前払費用・前受収益・未払費用・未収収益」の覚え方について紹介します。
前払・前受・未払・未収の覚え方
私が、簿記を学習しているとき講師から「”くまのみみ”で覚えてください」と教わりました。
繰延の頭文字「く」→前払・前受の頭文字「ま」
見越の頭文字「み」→未払・未収の頭文字「み」
繰延(くりのべ) | 前払・前受(まえばらい・まえうけ) | お金のやりとり…前 |
の | ||
見越(みこし) | 未払・未収(みはらい・みしゅう) | お金のやりとり…後 |
それぞれの頭文字をとって「く」「ま」の「み」「み」と覚えます。
「くまのみみ」を頭に入れて仕訳例をみてみましょう。
仕訳例
費用の繰延
当期に支払った金額に翌期以降分の費用が含まれる場合、翌期以降分の金額は決算整理において費用勘定から控除し、「前払費用」(資産)により翌期以降への繰延処理を行います。また、「前払費用」については、翌期首において費用勘定への振戻処理(再振替仕訳)を行います。
【例】事業年度(×1年1月1日~×1年12月31日)
×1年9月1日に1年分(×1年9月分~×2年8月分)の家賃1,200,000円を現金で支払った。
①支払時/×1年9月1日
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
地代家賃 | 1,200,000 | 現金 | 1,200,000 |
②決算時/×1年12月31日
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
前払費用 | 800,000 | 地代家賃 | 800,000 |
翌期分の家賃1,200,000×8ヶ月分/12ヶ月=800,000円を地代家賃(費用)から控除し、「前払費用」勘定により翌期以降へ繰り延べます。
③翌期/×2年1月1日(再振替仕訳)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
地代家賃 | 800,000 | 前払費用 | 800,000 |
決算時に計上した「前払費用」については、翌期首において費用勘定への振戻処理を行います。
収益の繰延
当期に受け取った金額に翌期以降分の収益が含まれる場合、翌期以降分の金額は決算整理において収益勘定から控除し、「前受収益」(負債)により翌期以降への繰延処理を行います。また、「前受収益」については、翌期首において収益勘定への振戻処理(再振替仕訳)を行います。
【例】事業年度(×1年1月1日~×1年12月31日)
×1年9月1日に1年分(×1年9月分~×2年8月分)の家賃1,200,000円を現金で受け取った。
①受取時/×1年9月1日
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金 | 1,200,000 | 家賃売上高 | 1,200,000 |
②決算時/×1年12月31日
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
家賃売上高 | 800,000 | 前受収益 | 800,000 |
翌期分の家賃1,200,000×8ヶ月分/12ヶ月=800,000円を家賃売上高(収益)から控除し、「前受収益」勘定により翌期以降へ繰り延べます。
③翌期/×2年1月1日(再振替仕訳)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
前受収益 | 800,000 | 家賃売上高 | 800,000 |
決算時に計上した「前受収益」については、翌期首において収益勘定への振戻処理を行います。
費用の見越
翌期に支払う金額に当期分の費用が含まれる場合、当期分の金額は決算整理において当期の費用勘定に計上し、「未払費用」(負債)により翌期へ見越処理を行います。また、「未払費用」については、翌期首において費用勘定への振戻処理(再振替仕訳)を行います。
【例】事業年度(×1年1月1日~×1年12月31日)
×1年9月1日に1年間(×1年9月~×2年8月)の契約でテナントを借りた。(家賃は退去時後払い)
①契約時/×1年9月1日
仕訳なし
②決算時/×1年12月31日
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
地代家賃 | 400,000 | 未払費用 | 400,000 |
当期分の家賃1,200,000×4ヶ月分/12ヶ月=400,000円を地代家賃(費用)に計上し、「未払費用」(負債)により翌期へ見越処理を行います。
③翌期首/×2年1月1日(再振替仕訳)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
未払費用 | 400,000 | 地代家賃 | 400,000 |
決算時に計上した「未払費用」については、翌期首において費用勘定への振戻処理を行います。
③翌期/×2年8月31日(家賃支払時)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
地代家賃 | 1,200,000 | 現金 | 1,200,000 |
収益の見越
翌期に受け取る金額に当期分の収益が含まれる場合、当期分の金額は決算整理において当期の収益勘定に計上し、「未収収益」(資産)により翌期へ見越処理を行います。また、「未収収益」については、翌期首において収益勘定への振戻処理(再振替仕訳)を行います。
【例】事業年度(×1年1月1日~×1年12月31日)
×1年9月1日に1年間(×1年9月~×2年8月)の契約でテナントを貸した。(家賃は退去時受取り)
①契約時/×1年9月1日
仕訳なし
②決算時/×1年12月31日
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
未収収益 | 400,000 | 家賃売上高 | 400,000 |
当期分の家賃1,200,000×4ヶ月分/12ヶ月=400,000円を家賃売上高(収益)に計上し、「未収収益」(資産)により翌期へ見越処理を行います。
③翌期首/×2年1月1日(再振替仕訳)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
家賃売上高 | 400,000 | 未収収益 | 400,000 |
決算時に計上した「未収収益」については、翌期首において収益勘定への振戻処理を行います。
③翌期/×2年8月31日(家賃受取時)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現金 | 1,200,000 | 家賃売上高 | 1,200,000 |